健診などでも指摘されることが多く、内服治療をしている方も多い、最も多い生活習慣病です。
最近では健康志向の高まりもあり、塩分のとり過ぎに注意することや運動などの重要性が広く知られるようになりましたが、それでも日本人の成人の2人に1人は高血圧であるといわれています。
ただ、高血圧自体は症状がない事が圧倒的に多く、高血圧により脳、心臓、血管などの病気が出現するようになり気が付くことも少なくありません。
ここでは、高血圧について正しく理解し、どのような対応・治療ができるか、等を分かりやすく解説していきます。
目次
1:高血圧とは?
2:なぜ血圧が高くなるの?原因は?
3:血圧が高いと何が困るの?
4:高血圧と言われたらどうしたらよいか?
5:高血圧の治療(生活習慣)
6:高血圧の治療(薬物療法)
最後に
1:高血圧とは
そもそも血圧が高い、とはどのような状態でしょう?
一般的に血圧とは、血管の内側から血管の壁にかかる圧力のことです。よく、上と下の血圧、という表現をされますが、心臓が収縮して血液を送り出すとき(圧力が高いとき)が収縮期血圧(上の血圧)といいます。一方、心臓が広がって、全身から心臓に血液が戻るときの血圧(圧力が低い)が拡張期血圧(下の血圧)と表現されます。
これらの収縮期・拡張期の血圧が、何らかの要因で上昇してしまうった状態が、「高血圧」といわれる状態です。
一般的には、図のように血圧は分類されますが、診察室血圧140/90以上、家庭血圧135/85以上で高血圧と診断されます。
2:なぜ血圧が高くなるの?
血圧は、心臓から送り出される血液量(心拍出量)と血管内の血液の流れやすさ(血管抵抗)で求めることができ、計算式にすると
血圧=心拍出量×末梢血管抵抗
の計算式で求めることができます。
血圧をあげる要因としては心拍出量が増加する場合や、血管が収縮する・血管が硬くなって広がりにくくなることが原因となり、下記①~⑤のような病態が原因となりえます。
①肥満:体積が増え、体の組織の酸素消費量が増えるため、より多くの血液を循環させる必要が出るため、循環血液量の増加のため血圧が上がります。
②ストレス:交感神経を興奮させることで心拍出量を増加させ、血圧が上昇します。
③塩分過多:血中の塩分が高くなることで、濃度を低下させるために多くの水分を蓄えるようになり、循環血液量が増加して血圧を上昇させます。
④喫煙:末梢血管の筋肉を収縮させることで血管が狭くなり、末梢血管抵抗が増大することで血圧を上昇させてしまいます。
⑤二次性高血圧:薬剤・特定の成分の作用がある場合があります(アルコール、コカイン、ステロイド、NSAIDs(痛み止め)、交感系刺激薬(エフェドリンやフェニレフリンといった総合感冒薬などに含まれる成分)、経口避妊薬など)。また、血圧が上昇するホルモンの分泌異常など、疾患の影響で血圧が上がる病気が少ないながらもあります。
3:血圧が高いと何が困るの?
通常高血圧のみでは、ほとんどの方には症状は出現しません。重度の高血圧の場合には、脳浮腫を生じて頭痛や吐き気、意識障害等を生じて昏睡状態となる事もあります(高血圧緊急症)。
また、血圧が高い状態が長く続くと、心臓や血管に障害を与え、脳卒中や心臓・血管の病気、腎臓病、認知症等、様々な疾患のリスクになる事が分かっています。
これは血圧が高くなることで、血管の壁が厚くなり、動脈硬化が進行することで、血管の流れが悪くなり、血流障害が生じたり、狭くなった血管を流すためにより強い圧力が必要となりさらに血圧をあげる悪循環に陥ってしまうこと等が原因と考えられます。
4:高血圧と言われたらどうしたらよいか?
健診などで高血圧を指摘された場合、まずは自宅の血圧を測定する事をお勧めします。
健診で血圧が高いとされた方の中には、病院や健診先などでは血圧が高いが、自宅や普段の生活環境では血圧が高くない、白衣性高血圧と呼ばれる病態の方もいるためです。
病院での血圧が140/90を超えていても、自宅血圧が135/85以下であれば白衣性高血圧と判断され、内服薬などの必要性はないと判断されます。
診察室で血圧が高くても、自宅で血圧が低い方の場合、降圧剤等で血圧が下がりすぎてしまう事もあるため、注意が必要です。
血圧の正しい測定方法としては、
①上腕血圧計を使用する(手首型は細い血管で計測するため不正確なため)
②朝と晩の2回測定が基本。
朝:起床後1時間以内、朝一番のトイレを済ませ、朝食前に測定
版:寝る直前
③トイレなどは済ませて(我慢していると血圧が上がるので)、椅子に座り、机に手をのせて、心臓と同じくらいの高さで血圧計を巻いて測定する。
④2回測定して平均を記載。
という方法が日本高血圧学会から推奨されています。
自宅で2-4週間程度血圧を測定し、血圧135/85以上が多いようならば、一度近くの病院・クリニックを受診し、相談してみることが必要となります。
また、喫煙や過度の飲酒、食べ過ぎ、塩分の取りすぎ、運動不足等、生活習慣で見直せるものがあれば、是非見直してみてください。
いきなりすべてを改善することは難しいかもしれませんが、少しでも生活習慣を改善することで血圧が改善する事も少なからずありますので、是非頑張ってみてください。
5:高血圧の治療
高血圧は大部分が生活習慣病であるため、生活習慣の改善が基本となります。
①塩分を取りすぎない:目標6g未満
②野菜や果物の積極摂取、油もの(飽和脂肪酸、コレステロール)を少なくする
③適正体重の維持:BMI(体重[kg]÷身長[m]2)25未満
④運動療法:軽強度の有酸素運動を30分(又は週180分)以上行う
⑤アルコール摂取:エタノールとして1日、男性20-30ml(日本酒1合、ビール中瓶2本、焼酎0.5合、ワイン2杯、ウイスキーダブル1杯に相当)、女性は約半分の10-20ml以下の制限が推奨されます。
⑥禁煙:喫煙は高血圧、心臓・脳血管疾患、肺疾患、悪性腫瘍等、様々な疾患リスクとなる事が証明されています。
また、特定保健用食品については、降圧成分を含むとはされるが、検証試験は患者背景もばらばらで、期間も薬剤に比べると短く、統計的に有意な結果が出せていないものも多いため、検証としては不十分です。したがって降圧剤の代替品とはなりえず、過度の降圧効果を期待しないことが必要であると、日本に高血圧ガイドラインでも注意喚起がされています。
ちなみに、「機能性表示食品」というものもあるが、届け出制で認可されるのみのものなので、推奨されていません。
健康食品や民間療法については、副作用の危険などがある事もあり、一度医師に相談する事をお勧めいたします。
生活改善でも血圧高値が持続する場合には、薬剤による内服治療等が検討されることとなります。
6:高血圧の治療(薬物療法)
血圧が高値となるほど、生活習慣の改善のみでは降圧が困難となるため、その場合には内服加療が検討されます。多くの場合、高血圧自体の症状はありませんが、高血圧治療の目的は、「脳血管疾患の発症による死亡や生活の質の低下を抑制する」ことにあります。臨床研究により、収縮期血圧(上の血圧)10mmHgまたは拡張期血圧(下の血圧)5mmHgの低下で、心血管疾患の発症リスクを20%、脳卒中30-40%、冠動脈疾患20%、心不全で40%、全死亡(すべての原因の死亡)10-15%低下させることが明らかにされています。
薬物療法は、
①カルシウム拮抗薬
②ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
③利尿薬
④β遮断薬
が一般的な高血圧では第一選択として使用されます。それ以外にもMR拮抗薬(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、α遮断薬、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)等もありますが、第一選択としては通常の高血圧では使用しないため今回は割愛します(特殊な病態では第一選択になる事もあります)。
それぞれの簡単な概要をご説明します。
①カルシウム拮抗薬
血管拡張作用、徐拍化作用を持つ。狭心症や頻脈の症例では血圧降下以外の効果も有しており、かつ副作用が少なく、幅広い患者で第一選択となりえます。
主な副作用としては血管拡張作用に伴う頭痛やほてり、下肢浮腫、徐脈によるめまいなどの症状、歯茎の腫脹等が出現する事がありますが重篤なものは少ないです。
②ACE阻害薬・ARB
カルシウム拮抗薬と並んで第一選択として使用されることが多く、血管収縮抑制、体液貯留・交感神経活性を抑制する事で降圧効果を発揮します。臓器保護効果もあり、心血管疾患や腎障害合併の場合には第一選択となります。
妊婦や授乳婦には禁忌であり、ACE阻害薬の副作用として空咳等が出現する事があります。
③利尿剤
日本人に多い、食塩感受性高血圧に対して効果が出やすい薬剤です。Naの再吸収抑制、末梢血管抵抗減少などの作用で降圧をします。
脱水や腎障害には注意が必要だが、症例によっては非常に効果が出やすいため第一選択となる事もあります。
④β遮断薬
心拍数減少、心収縮抑制、交感神経抑制作用等で血圧を下げる薬です。
交感神経の活性化の要素が強い高血圧(脈が速い、緊張しやすい、神経質)に対して使用されることが多いです。心疾患に対しては、心保護作用を期待して使用されることも多い薬剤です。副作用として、徐脈による症状や喘息、狭心症症状の出現等に注意が必要な薬剤です。
基本的には、医師の判断で、その患者さんの病態・合併症等に応じて上記薬剤の単剤、又は組み合わせによる薬剤選択がなされます。
また、よくある誤解として
「内服薬は使用し始めたら一生やめられない」
「内服していれば生活習慣改善はしなくても良い」
といったことがありますが、薬物療法を開始後も、生活改善がうまくいくことで薬剤の減量・終了ができる方もいます。逆に生活改善が思ったようにできない、合併症の関係で内服継続が必要、加齢に伴う代謝能力の低下もあって内服がないと血圧が下がらない場合には継続が必要となります。
そのため、内服開始後も血圧や全身状態の評価、生活習慣の確認等が非常に大切となるため、治療については薬物任せにせず、ご自分でも頑張れるところはしっかり取り組む必要があります。内服の必要性についてもしっかりと理解し、不明な点はその都度かかりつけの医師に確認・相談をすることをお勧めします。
最後に
高血圧自体は非常にありふれた病気ですが、生活習慣を見直すことで治療することができる病気でもあります。
まずは自分の血圧を知る事から始めて頂き、家で測定する血圧が高い時には、一度医師にご相談いただくのが良いでしょう。
参考文献:
1:日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編).
高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版:東京,2019.
2:血圧パートナー 高血圧学会監修